退職時に受け取る退職金や、厚生年金基金から支払われる退職一時金にも所得税や住民税がかかります。特に、退職一時金はかなりまとまった額となるため、そのまま課税されてしまうと税金が高くなります。しかし、退職金は老後の資金、今後の生活を支える大事な資金なので、退職所得にかかる課税は他の所得と比べて2つの点で軽減が図られています。
そのひとつとして、退職所得は分離課税方式が採用されており、給与所得などの総合課税方式とは異なり、他の所得と区分して課税されます。所得が高くなればなるほど税率も高くなる累進税率をベースとした総合課税方式で計算されてしまうと、総所得が一気に跳ね上がり、税金が高くなってしまうからです。
もう一点は、退職所得控除といわれるもので、退職金から勤続年数に応じた退職所得控除額を差し引いた残りの額の2分の1を課税対象額とするものです。一定の税率で計算される事になるため、退職金にかかる税額が軽くなるように優遇されているのです。
■「退職所得の受給に関する申告書」を提出しよう
上述した「退職所得控除」を受けるためには、「退職所得の受給に関する申告書」を退職金の支払い時までに会社に提出する必要があります。この申告書を提出する事で、退職所得控除額を差し引いた額をもとに税額が計算され、その後で源泉徴収されるため確定申告をする必要がなくなります。
では、この書類を提出しないとどうなるのか?退職所得控除も2分の1の計算もなくなり、退職金の支払総額に一律20%が源泉徴収されるため、大損する事になります。その場合、翌年の3月15日までに確定申告をして払いすぎた分を取り戻さなければいけなくなります。
以下に退職金にかかる税額の計算式を記します。「退職所得の受給に関する申告書」を提出した人と、提出しなかった人でその計算式は異なります。
■提出した人の場合
退職金の税額 = (退職金などの額 - 退職所得控除額) ÷ 2 X 税率
■提出しなかった場合
退職金の税額 = 退職金 X 20%
次に、退職所得控除額を求めます。退職所得控除額は、勤続年数に応じて計算され、20年以下の勤続年数の人と、20年以上の勤続年数の人で控除額が変わってきます。
勤続年数 | 退職所得控除額 |
---|---|
20年以下 | 勤続年数 X 40万円 (80万円以下の場合は80万円) |
20年以上 | (勤続年数 - 20年) X 70万円 + 800万円 |
※勤続年数に1年未満の端数がある場合は、たとえ1日でも1年として計算します。
※障害者になったことが直接の原因で退職した場合の退職所得控除額は、上記の計算額に100万円を加算した額になります。
■具体例でみる退職金の税額の計算
会社からもらった退職金の額が、退職所得控除額以下であれば、税金はかかりません。例えば、勤続20年の人であれば、20年 X 40万円 = 800万円となり、会社からもらった退職金が800万円以下ならば税金はかからないことになります。勤続30年ならば1500万以下、勤続40年なら2200万以下の退職金で所得税も住民税もかかりません。
以上のことをまとめると、要するに「退職所得の受給に関する申告書」を提出しさえすれば、税金面ではほとんど気にする必要はないということになるでしょう。